LOGINその週末、土曜日。
郁人は仕事でいないから、私は息子の俊太をつれて少し離れた公園に出かける。 まだちょっと暑いけれど、風が吹くと涼しくて心地いい。 自転車のチャイルドシートに俊太を座らせて、公園に向かう。 「おっきい公園?」 俊太に言われて、私は頷いて言った。 「うん。東雲さんに教えてもらった公園に行ってみよう、って思って」 「そうなんだ」 私は知らなかったけど、普段私が行かない方に大きな公園があって、アスレチックとか、ドーム型の飛び跳ねる遊具が充実しているらしい。 普段は近所の公園しか行かないから知らなかった。 特に仲がいいママ友もいないし。 公園に向かいながら私はずっと、郁人の事を考えていた。 家では全然会話、しないのよね。 「話しなくなってどれくらい経つだろう」 呟いて考えてみるけれど、もう一年以上、まともに会話、していないかも。 保育園の行事はスマホで伝えているし。 郁人は俊太の相手はする。 お風呂にも入れてくれるし、遊んでもくれる。当たり前のことだけど、なんだかモヤモヤするんだ。 それも全部、あの、女性と一緒に歩いているのを見てしまったせいだろう、と思う。 休みの日に女性と楽しそうに歩いて、あれ絶対に何かある。 そう思って家にいる間の様子を観察してるけど、でもすぐに自分の部屋に引きこもっちゃうし、何も掴めない。 探偵に依頼するのはちょっとな、と思って躊躇する。 そんなことを考えている間に、公園に着いた。 東雲さんが言うように、大きな公園でしかも遊具が綺麗だ。 自転車を降りるなり、俊太は、 「すっげー!」 と、声を上げて走り出す。 私はそれを慌てて追いかけていく。 「ちょっと、俊太!」 俊太はまっさきに、子供たちが飛び跳ねて遊んでいる白いドームへと近づいていく。 また別の場所では水遊びができる噴水があるみたいで、水の音と子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。 俊太が靴を履いたまま遊具に乗ろうとするので、私は慌てて抱き留める。 「まって、これで遊ぶならお靴脱がないと」 「やだ!」 案の定の答えに内心苦笑いしつつ、私はしゃがんで俊太の顔を見て言った。 「この遊具は靴を脱がないとダメなの。皆、靴脱いでるでしょ?」 すると俊太はその場に座って、靴を脱いでさらに靴下も脱ぎだす。 とりあえず一回は、イヤ、と言わないと気が済まないらしい。 このイヤイヤ期、まだしばらく続くのよね。 郁人は俊太のこういうところ、あんまり知らないんだな。 走っていく俊太の背中を見つめ、私は小さく息をつく。 どうすれば、郁人の不倫相手の事、調べられるだろう。 今のところ、手がかりはないのよね。 たぶん年下の女性。知り合ったのはどこだろう? ジム? 職場もありうるか。 郁人の職場には学生のアルバイトの子たちがいるし。 たしか、高校生もいるって言っていたような。 「……高校生じゃ、ないよね?」 そう思ったら鳥肌がたってきた。 いや、何もあの子が十代と決まったわけじゃないのに、郁人がものすごく気持ち悪いものに見えてきた。 違うよね? そこまでじゃない、よね? でも自分が大学卒業してすぐに郁人に声をかけられたことを思い出すと、ありえないとも思えない。 浮気調査なんてした事ないし、どう立ち回ればいいのか全然わからない。それに、遊んでいる俊太を見ていると、真相を知ることが正しいのかもわからない。 俊太の様子をうかがいつつ、私はスマホで浮気調査の方法を調べる。 スマホを盗み見る……無理だ、そんなの。おいていくとかないし。すぐに部屋に引きこもっちゃうし。 財布の中身を確認する……それはなんだか気がひける。 あとは、やっぱりあとをつけるかぁ。でも俊太がいるから厳しいなぁ。 これ、詰みじゃないかな。 友だちに頼むのも難しい。皆子育てに忙しいし、こんなの言えるわけがない。 「気になるのになぁ」 「あれ、坂本さん?」 聞き覚えのある声に驚いて、私はびくっとして振り返る。 「あ……し、東雲、さん」 そこにいたのは、淡いベージュのTシャツを着た東雲さんだった。 なんで、と思ったけれどそもそもこの公園を教えてくれたのは東雲さんだし、ここ、マンションから近いものね。会うのは当たり前だ。 「こんにちは。あの、教えていただいたので子供、さっそく連れて来てみました」 そう言って私はぎこちなく笑って、スマホをしまう。 すると東雲さんは頷き、視線を白いドームの方に向けて言った。 「あぁ、そうなんですね。あぁ、俊太君いた。うちのさくらもあっちで跳んでいて」 と言い、俊太がいるドームの隣にあるすごく大きいドームの方に目を向ける。 ハーフパンツ姿のさくらちゃんが、楽しそうに飛び跳ねているのが見えた。 大人は使っちゃいけない、って注意書きがあるから一緒に遊べないけれど、これ、絶対楽しいよね。 「本当だ。初めて来ましたけどここ、遊具が多いですね」 「そうなんですよ。まだ新しいし、遊具も充実していて休みの日はたいていここにきて遊ばせています」 「いいですね、こういう公園が近くにあると」 正直羨ましい。 うちの近所にも公園はあるけれどふつうの公園だ。それでも充分、俊太は楽しそうだけれど。たまにはこういう公園くるのもいいかもしれない。 そう話していると、さくらちゃんが私に気がついたらしく、大きく手を振ってくる。 私も手を振り返すと、さくらちゃんはわたわたとドームを下りてくる。 そこに東雲さんが慌てて近づくと、パパを押しのけて靴下と靴を自分で履いてこちらにやってきた。 「俊太君ママ!」 そう言って、大きく手を振る。 「こんにちは、さくらちゃん」 「俊太君もいるの?」 言いながらさくらちゃんは辺りを見回す。 するとさくらちゃんに気がついたらしい俊太が慌ててドームから下りてきて、私にしがみ付いてくる。 そして、こちらを見上げて言った。 「あっち行きたい!」 「その前に靴、履かないと」 「ヤダ!」 「ヤダじゃないでしょ、足汚れるよ」 そう言うと、俊太はお構いなしに裸足のまま走り出す。 やっぱりそうなるんだから。 私はさくらちゃんたちへの挨拶もそこそこに、俊太を追いかけた。デジタルカメラを用意して、ウォーキングに見えるようにジャージに帽子を被る。 これで風景写真を撮るウォーキングの人に見えるかしら。 例の女性が私の顔、知らなければいいけど。知っていたらばれるかな。 私の方はあの女性を見た記憶、ないのよね。 だから顔、知られていないと思いたい。 鏡で自分の格好を確認して、私は大きく息を吸う。「あぁ、緊張するなぁ……」 こんなことした事ないしな。 仕事は済ませた。 夕飯は、東雲さんが買ってきてくれると言っていた。 準備万端。 私は東雲さんに、彼女が通う国立大学の近くまで送ってもらった。 時間は三時半過ぎ。 私は大学のそばを散歩しながらその時を待った。 秋の初め。 まだ暑さが残っていて、動いているとじわり、と汗がにじむ。 大学の周辺には木が多く川もあって、私みたいに散歩やウォーキングをしている人の姿も多かった。 私は辺りを歩きながら、時々写真を撮って辺りを見回す。 これで風景の写真を撮る人にみえる、よね? あぁ、緊張する。 大学の四限目の講義が終わるまであと少し。 正門以外にも門があるけど……どこの門から出てくるかな。 彼女が上げていたマンションの部屋の写真を画像検索してみたら、この近くのマンションぽかった。 本当に、今の子って危機感がない。 おかげでどこの門から出てくるか、予測できてしまう。 たぶん正門から出てくる。そこからが一番マンションに近いからだ。 本当に、大学から徒歩五分のマンションなのかっていう確証はないけれど。 辺りの写真を撮って、散歩しながら私はその時を待つ。 四限目が終わるのは確か四時頃。 あぁ、なんか緊張してきた。 なるべく自然に見えるようにしないと。 心臓が口から飛び出してしまいそうな感覚を覚えながら、私は大学の正門が見える所に立って辺りの風景の写真を撮る。 しばらくして、正門から講義を終えたらしい学生たちが出てくるのが見える。 でてくる。 私は帽子を目深にかぶってじっと、正門を見つめた。 指先が震えて、カメラを握り手に汗がにじむ。 どれくらい経っただろう。 デジカメの液晶を見つめて正門の辺りを拡大していると、見覚えのある女性が友だちらしき人と出てくるのが見えた。 焦げ茶色の髪を後ろで縛っていて、茶色のジャケットを羽織っている。 メイクは
この先の方針はこうなった。 郁人にはまず子供の養育費の請求だ。そして婚姻期間中の財産分与。 私としては、とにかく俊太の権利である養育費をきちんともらいたい。 たいした財産はないけど、貰える物はちゃんと貰いたいし。 秋月さんは、クリアファイルの写真を見つめて言った。「養育費と財産分与は問題ないですが、お相手の女性についてもっと調べて裏付けをとらないと、慰謝料請求とかはできませんがどうしますか?」「そう、ですよね」 それはわかっている。 だって、今集めた情報だけだと浮気の証拠としては弱いよね。 郁人の顔が写っている写真がないのよね。 でもあのリテラシーの低さなら顔が映っている写真、どこかにありそうな気がするけれど。「私にできそうなことってなんですか?」「そうですね。探偵に依頼して彼女の身辺調査をするのが妥当でしょうか。幸い学校も本名もわかっていますから、家を特定するのは簡単でしょう」 やっぱり探偵を雇うしかないか。 そう思うと気が重い。だって何十万、ていうお金がかかってしまうからだ。 「と、とりあえずあの、養育費の請求と財産分与の請求をお願いします。それ以外についてはちょっと考えます」 そう震える声で言うと、秋月弁護士は頷いて、「わかりました。それは進めていきます」 と言った。 浮気の証拠、捜すの難しそうだな。 学校に張り込みしてあとをつければ私でも家の場所を特定できるんじゃないかな。 SNSに今日は何限の講義、とか書いていたし。 そう考えていると、隣から声がした。 「あの、有藤さん」 遠慮がちに言う、東雲さんの声だ。「探偵に、調査してもらいますか? 今さらな部分はあるかもしれませんけど」「え? いや……じ、自分でやってみようかな、と思います」 そう力なく笑って言うと、東雲さんは目を見開く。「え? あ、じ、自分で?」「はい。あの、学校はわかっていますし、本人のSNSから何曜日は何限の講義ってわかっていますから。だから学校の出入り口を見張れば家の場所を特定するのは簡単だと思います。それに、郁人と同じジムに通っているみたいだからふたりで一緒にいる所を写真に撮れるかと」「あまりお勧めはしませんが」 そう、秋月弁護士が苦笑して言う。「素人では見つかるリスクもありますし」「そうかもしれないですけど……探偵を
綺麗なビルの一画に、その弁護士事務所はあった。 鏑木法律事務所。数人の弁護士さんが所属する弁護士事務所だそうだ。 そこの応接室に通された私は、びくつきながら椅子に腰かけた。 眼鏡をかけた、スーツ姿の男性が私たちの目の前に腰かける。 なんだかホストみたいな見た目の人だ。 彼は名刺を取り出してニコニコと笑い言った。「初めまして、秋月と申します」「あ、えーと、有藤涼花といいます。よろしくお願いします」 お茶が運ばれてきたあと、秋月さんは私の方を見て言った。「東雲さんから話は伺っていますが、詳しく状況を教えていただけますか?」 静かに語る秋月さんに、私は頷いて自分の私の身に起きた状況を話した。 まとめてきたメモを見て、そのあとスクショを印刷したものを挟んだクリアファイルをバッグから取り出す。 緊張か、別の理由かわからないけれど手がずっと震えている。 「あぁ、それがお相手のお写真ですか?」「は、はい。あの、できる限りスクショして印刷してきたんですが」 言いながら私は秋月さんにクリアファイルの中身を見せた。「失礼します」 秋月さんは私が集めた画像たちを見て、苦笑を浮かべる。「今時ですねぇ。通っていた学校、行ったところ、今の学校、全部のせているなんて。これじゃあ、住んでいる場所もわかりそうだ」「し、信じられない……俺が大学生の頃はそんなの絶対にネットに書かなかったぞ」 そう、呆れたように呟いたのは東雲さんだ。 それは私も同じ気持ちだった。 個人情報をネットに垂れ流しなんて、ありえないと思うもの。 「おかげでいつ彼とどこに行ったのか全部わかってよかったですけど」 そう苦笑いして言い、私はメモを見る。「私には出張とか、ジム行って来たとか言っていた日にデートしてますからね」「こういうの見つかるって思わないんですかねえ」 東雲さんの言葉に、秋月さんは肩をすくめて苦笑した。「そこまで思っていないのでしょうね。意外と世界は狭いのに」 その言葉を聞いて東雲さんは首を横に振り、「危機感ないもんなんだなぁ……」 と呟いた。「そうですね。しかも彼が妻子持ちだとわかっていて、これだもの。呆れると言うよりもぞっとします」 まるで見せつけて自慢するかのように、郁人と撮った写真をアップしていた。 顔は隠しているとはいえ、見る人見たら
『有藤さん、返信遅くなって申し訳ないです。今月の運動会の日ですが、デリバリーを頼もうと思うのですがいかがでしょうか? 子供も喜ぶしそれに、外だとその、人の目もあると思うので』 というメッセージが返ってくる。 確かに、へたに一緒に食事とかしているのを保育園の人に見られたら面倒よね。 保育園には離婚したことを説明したけれど、保護者にいちいちそんなの説明する必要、ないし、仲いい人がいないから誰にも話していない。 「東雲さん、すごく気を使ってくれるなぁ……」 そういうちょっとした気遣いが嬉しく感じてしまう。 『そうですね。お言葉に甘えさせていただきます』『それじゃあお店は俺の方で考えておきます。あと明日ですけれど、俺もご一緒させていただきますね』 明日。 それはつまり、私が弁護士に会う日だ。 その言葉を見るとどきり、としてしまう。 ひとりじゃ心細いし、東雲さんがいてくれたら心強い、とは思うけれど。 一瞬悩んで、私は返事をする。『そんなの悪いです。私ひとりで大丈夫ですから』『でも俺にもこうなった責任がありますから』 それはそうかもしれないけれど。 東雲さんとあの日、公園で会っていなかったら私は郁人の浮気のこと、気が付きもしないままで今もあのマンションで疲れて鬱々としていたかもしれない。 結果的にどうなのかっていうのはまだわからないけれど。 でも東雲さんには責任、無いと思う。悪いのは全部郁人だ。 ちょっと押し問答した後、結局私は折れた。 東雲さん、一緒に弁護士と会う、と言って譲らなかったからだ。 ありがたいような、なんだか複雑な気持ちだ。 『明日一度会社に行ってからになりますが、十時前にお迎えにあがります』『すみません、よろしくお願いします』 私はスマホをしまい、「よし」 と、気合を入れて子供たちを迎えに行く前の仕事を始めた。 翌日。 子供たちを送り、午前中の家事を終えた頃。 バタバタとお出かけの準備をする私のスマホが鳴る。 そこで初めて時計を見ると、もう約束の十時を迎えようとしていた。「うそ、もうこんな時間?」 私は慌てて、化粧品を引っ張り出す。 いつもはファンデーション位しかしていないけれど、もう少し身ぎれいにしていきたい。 そう思って、私は大急ぎでアイシャドウとマスカラをつけ、ショルダーバッグを
親に、離婚したことを連絡した。『え、あ、え? どういうこと?』 と、困惑した反応が返ってきた。 それはそうよね。 私だって訳が分からないもの。『俊太は? 俊太はどうしてるの?』「俊太は私と一緒。だって、郁人、さんにはご両親いないし。面倒見られないよ」 そう、苦笑して答える。 そうなんだ、郁人の両親は私たちが結婚した後に相次いで亡くなった。 だから郁人を引き取ろうと思わないだろうし、彼女と付き合うにも邪魔、だろう。 そう思うと心が痛い。 慰謝料とかどうでもいいけど、養育費だけはちゃんと払ってほしい。 弁護士さんには、金曜日に会う約束になっている。 そのために情報をまとめるように言われているけれど、集めたスクリーンショットとかを見ると気持ちが悪くなる。 弁護士さんに会うの、明日、なのにな。 息をついて、私は仕事を始めた。 だって、働いている間は余計なことを考えなくて済むから。 家事をして、夕食の買い物に行く。和食がいいらしいから、スーパーを歩きながらメニューを考える。 あぁ、サバの味噌煮がいいな。それとほうれん草のあえ物に、大根の煮物にしよう。あとお吸い物かな。味噌煮は味が濃いし。 買い物をしていると、今朝の食事の様子が頭の中に浮かぶ。 満足そうな皆の顔を思い出すと自然と足取りも軽くなって、夕食のメニューを考えるのも楽しくなる。 俊太とさくらちゃんのおやつも考えて、私は買い物を終えてマンションに戻った。 買ってきたものを片付けて、私は一息ついて甘いカフェオレを飲む。 今、時刻は十二時を過ぎたところだ。 私はお昼を食べて、ひと休みする。 午前中にお部屋のお掃除をしたけど、広い。リビングダイニングに主寝室。東雲さんの書斎に、子供部屋。 それに私たちが使わせていただいている部屋。 ロボット掃除機がいるからそこまで大変ではなかったけれど。 いつまでもここにいるわけにはいかないから、お金溜めてどこかで暮らせるようにしないとな。「がんばろう」 東雲さんに出会えて本当に良かった。 そうじゃなくちゃ私、きっと俊太を抱えて途方に暮れていたから。 人間、想定外なことが起こると思考が上手く回らなくなるんだなって思った。 今は少し冷静になってきて、すぐに離婚届を書いてしまったのを悔やんでいる。 郁人の相手、医学部だって書い
東雲さんの住むマンション。 その部屋は私の思う以上に広かった。 そもそも住み込みで家政婦を雇うことが前提の部屋らしく、キッチンとリビング、それに部屋がもうひとつあった。 こんなに広い部屋があるんだ。 そのことに驚く。 役所で諸手続きを済ませて、保育園にさくらちゃんと俊太を迎えに行きマンションに連れて帰る。 そして俊太を別室に連れていき、「今日からここに住むよ」 と、伝えると、俊太は目を輝かせた。 部屋の中は綺麗に片付けられていて、テレビ台がありテレビが一台置かれている。それでも私たちが住んでいたマンションよりも広い。 俊太は目を輝かせて、室内を探検し始める。キッチンにお風呂もトイレもあって、別にひと部屋ついている。 こんなマンションがあるんだなと心底驚いた。 部屋、広すぎる。 ひと通り探検し終わった後、俊太は私の方を見て、ニコニコとして言った。「パパは?」 そう言われると、私は心が痛い。 離婚の事を説明しようがない私はその場にしゃがんで、俊太に向かって言った。「パパは、ちょっと離れることになるの」「なんで?」 離婚を説明して、わかるだろうか。 いや、まだわからないと思う。 少しずつ説明しよう。 まだ私には、俊太にちゃんと離婚の事を説明できる勇気、ないから。 「お仕事、忙しいからね」 と、伝えなんとか納得させる。 とはいっても大して納得はしてくれなかったけれど。 動画とお菓子で誤魔化したけれど、いつまでも誤魔化せないわよね。 明日は両親に説明しに行かないと。 そして私と俊太と、東雲家との生活が始まった。 朝、六時から私の業務は始まる。 洗濯機を回して、俊太を起こして用意をさせた後、朝食の準備を始める。 朝は簡単でいい、と言われているけれど簡単とは? と思い、事前に宮園さんから聞いた。普段は朝食はパン中心、夕食は和食中心だったらしい。 厚切りのパンを焼いて、半分にカット。それに野菜スープとスクランブルエッグ。ウィンナーを焼く。 それにサラダとヨーグルト。バナナをカットして、カプセルタイプのコーヒーマシンを使ってコーヒーを用意する。 そうしている間に、さくらちゃんと東雲さんが起きてくる。「おはようございます」 そう微笑む東雲さん。すっかり着替えたさくらちゃんがぱたぱたとこちらに近づいてきて言った